卒業生インタビュー202503

卒業生インタビュー「それぞれの言葉で語る、どんぐりの学び」

卒業生インタビュー202503
写真左から、あつしくん、ほうしょうくん、ひかりちゃん、こはるちゃん
はじめに
鹿児島県吉野町にある「どんぐり自然学校」は、シュタイナー教育を軸に独自の教育理念を持ち、30年の歴史を重ねてきた学校です。どんな場所で、どんな経験をし、それが今の自分にどうつながっているのか。今回は高校を卒業したばかりの4名の卒業生に集まってもらい、自由に語り合ってもらいました。
彼らの言葉から、どんぐり自然学校での学びの本質が見えてきます。
どんぐりにはいつ通っていたの?
それぞれがどんぐり自然学校に通っていた期間は様々です。
こはるさん:「私はひばり組(2歳)ぐらいからずっと」
ひかりさん:「8年生と9年生の2年間」
あつしくん:「3年生から9年生まで」
ほうしょうくん:「幼稚園の年中から9年生まで。年中の途中から11年ぐらい」
最長で13年、最短でも2年間。それぞれの「どんぐり時間」は異なりますが、その経験は深く心に刻まれているようです。
印象に残っている思い出

8年劇

全員が口をそろえて挙げたのが「8年劇」でした。
こはるさん:「8年劇じゃないですか?なんかずっと1年間ぐらい、みんなで」
ほうしょうくん:「自分はあんまり真面目にできなかった」と謙遜しながらも、「舞台装置とか全部考えて」と語ります。
あつしくん:「脚本作りからやってんだよね」
彼らが演じた劇は『モモ』。地元の新聞にも掲載されたほど評判になったようです。特に印象的だったのは、永綱先生(なっちゃん先生)の指導の様子です。
こはるさん:「監督に、我らが代表・永綱先生がいらしたんですけど、足音がすると、場がね、ちょっとすごいなんていうか、緊張感があってね」 「生徒だけだったらもっとだいぶ遅い進みになったと思います」
この言葉からは、真剣な取り組みながらも、生徒たちが主体的に関わるプロセスが読み取れます。

なっちゃん先生

「なっちゃん先生」こと永綱先生は、卒業生たちにとって特別な存在です。
こはるさん:「すごい人だと思います。なんか芯があって、直感もすごいんだと思います。このシーンの意味は何でしょう?という根本的な問いを投げかけてくれたことも印象的でした。
あつしくん:「先生は教育に精通されてる方なんで、本当に困ってる時とか本当にどうしたらいいかわかんない時に寄り添ってくれる人」
ひかりさん:「屋久島キャンプなんかでも、寂しくて涙が出る子がいるんですけど、その時にリーダーが追いつかない時には声をかけて色々話してるところを何回も見たことがある」
1〜9年生が参加する毎年恒例の屋久島キャンプの旅立ちのフェリーから手を振る子供たち
毎年、親たちはフェリーが見えなくなるまで見送ります
こはるさん:「アメとムチが上手。どうしたらその子が成長できるかっていうことを、ちゃんと分かってらっしゃる」
ほうしょうくん:「物事を決めるのがすごく早くて、みんなを導いてくれる」

自分たちで考え、決めること

どんぐりでの学びの特徴として、自分たちで考え、決めることの重要性が語られました。
こはるさん:「大体はやっぱ自分たちで決める方がベース。アドバイスも、決めたことをこうですけどっていう風に聞きに行って、そっからアドバイスをもらって決断が変わったりしたことは結構あります」
あつしくん:「こういう風にしてくださいっていう指示もあったんですけど、それとまた別に『あなたならどう考えますか』みたいな課題をもらったことがたくさんあった」
あつしくんが印象的な例えで語ったのが「サンドイッチ」の考え方です。「僕らが考えたらきっとふわっとしてるであろうものに、なっちゃん先生がスパイスといろんな部分を積み込んで、最終的に僕らがアドバイスされたことをしてパンとしてキュっとするという感じ」
このような学びの過程を通じて、思考力や表現力が育まれていったようです。

仲間との深い繋がり

どんぐりでの経験で大切なのが、仲間との深い繋がりです。
こはるさん:「今から今思うとすごい周りに仲間がいたなって思います。日々の生活の中に心を通じ合える人が近くにいっぱいいてくれるのはすごく幸せなことだと思います」
劇の制作過程で仲間との距離が縮まったと語るひかりさん。「8年生から入ったんで、劇が始まる前はまだ完全に解け込めてないなっていう気持ちがあったんですけど、劇をする時に泊まって背景の絵を作ったりしてすごく仲良くなりました。そこですごく距離が近づいたなっていうことがあって」
ほうしょうくん:「普通の学校だったら学年が変わるたびにクラス替えがあるけど、どんぐり行くとずっと同じ人たちと一緒。それが違い」
こはるさん:「広く浅くじゃなくて本当狭く深くって感じの。何も言わなくても通じるみたいなとこも結構あったりして」
その深い絆は卒業後も続いているようです。こはるさんは「卒業した後それが続いている」と語り、インタビューの場でも「久しぶりの感じがしない。すんなりこう前の感じで戻れる」という空気感がありました。
どんぐりでの経験が今につながっていること

「周りを見る力」の獲得

高校生活を経て、どんぐりでの経験が自分の中にどう残っているかを語る卒業生たち。特に「周りを見る力」を身につけたことが、多くの場面で語られました。
あつしくん:「周りを見るようになりました」 「高校に通ってみて、意外と結構あんまり見えない人が多いんだなって。例えば、ここで友達と会話していて、ここで物が落ちた時に、まだ気づかないんやなっていう。物的な面でもそういうところは意外と見えてない人が多いなっていう印象があった」
こはるさんは、具体的な場面として、「授業が終わって帰る時に机がバラバラってなってたらそれをあ、揃えないとって思って全部最後揃えて帰ったりとか」「友達がいつもとちょっと違うなっていうのも分かったりとか」と説明します。
ひかりさんも、現在のアルバイト先でその力が活きていると言います。 「入ったらすごいよく周り見れてるみたいな結構言ってもらえることが多くて。誰かが仕事してても、こっちの方の仕事に回らなきゃいけなくなった時に、そのやりかけの仕事はすぐ終わらせないとダメなやつとかもあるので、そういうのに結構早く気づけるとか」
この力がどこから来たのか尋ねると、即座に「やっぱりキャンプですかね。全体を見るっていう考え方。常に先のことを考えて、常に全体を見て、今誰がどこにいて、誰が何をしてるか、どこに何が問題があって、でも何時までにこれをしないといけないみたいな情報がすごすぎてもうすごい入ってくる」と答えました。
キャンプでの経験が、物事を俯瞰して見る力、全体を把握する力につながっているようです。

年齢の違う仲間との関わり

どんぐりでは、年齢の異なる子どもたちが一緒に学ぶ環境があります。その経験が今につながっていると語る声も。
学年の違う子たちが自然に交流できる環境
こはるさん:「進学が教育関係なので、小さい子たちとかいろんな年齢の子が周りにいるっていう環境が、結構今の自分の進路と繋がってると思います」
ひかりさん:「しっかり年下の子を見てないといけないという感覚。幅広い学年があったからこう変わった」
ほうしょうくん:「低学年の時から入ると、兄弟がいない人でも、小さい頃は上級生が兄や姉のような存在で、大きくなると今度は下級生が弟や妹のような存在になる」
こうした異年齢での関わりが、責任感や思いやりの心を育んでいくのだと感じます。
高校生活を通して気づいたこと
高校に進学し、どんぐりとは異なる環境で学ぶ中で、改めて気づいたことも多かったようです。
こはるさん:「色々あるかもしれないですけど、まず私の学校の周りで、畑とかで草なんかを燃やしてる時があるんですね。みんな煙をすっごい嫌がるんですよ。でも私は煙の香りもなんか結構好きだなって思って、すごいそれで変な人って思われました」 「虫をそんなに怖がらないとことか。すっごい怖がる人が多くて、男の子でも怖がるから、そういうとこにびっくりされるのが多い」
自分でかまどを作り、火を起こしてご飯を炊く
ひかりさん:「先生が話してる時もみんなすごいなんだろう、おしゃべりしちゃったりとかっていうのが、いいのって思って、ダメでしょうって思っちゃうとことか」
どんぐりでの経験が、自然との関わり方や、学びの場での姿勢に影響していることがうかがえます。
これからの進路と未来への展望
それぞれが描く未来の姿も聞かせてもらいました。
こはるさん:「私は大分大学であの教育なんですけど、その中でも特別支援教育っていうのを学びに行ってきます」 特別支援教育を選んだ背景には、どんぐりでの経験が深く関わっています。「本当にいろんな人と、本当に何の隔たりもなく関わってきたのが、繋がってる気がします」と、どんぐりでの多様な子どもたちとの交流が、特別支援教育への関心に結びついていることを語っていました。
ひかりさん:「京都にある通信の美術大学に。なんだろうな、絵を書いたりとか結構物作ったりするのが好きなんで。私の場合はなんか自分の内面を表現するツールだったりとか、自分の世界ってどんなのかなって探るための手段なので、イラストの技術は学びたいんですけど、働き方的にはアーティストとか作家さんとか、自分の作ったものを気に入ってくれる人がいればいいなっていう感じ」
あつしくん:「農学部を受験してます。将来的には自然と触れ合って、映画『杜人』みたいなことをしたいなと思って。どんぐりみたいな子供たちと出会えるコミュニティみたいなのを作りたいなって」
ほうしょうくん:「鹿児島大学の数理です。とりあえず自分は今から大学入ったら、日々の課題を精一杯、自分に与えられたことをちゃんとできるようになりたい」
それぞれの描く未来は異なりますが、どんぐりでの経験が土台となっていることがわかります。
どんぐりとはどんな場所か
インタビューの最後に、それぞれにとってどんぐりがどんな意味を持つ場所だったのか聞いてみました。
こはるさん:「自分の土台だと思ってて、やっぱり2歳から9年生まで通ってきたので、ほぼ私の人生はどんぐりでできてるようなものなので。自分の今のこの価値観とか感性とか、全部が多分どんぐりの友達とか先生方とか教えてもらったもので出来てると思うので、感謝ですね、本当に。自分そのものって感じ」
ひかりさん:「全体を見る力もどんぐりではついたと思うんですけど、それ以上に自分的にはすごいなんか日々の生活ってありがたいんだなってことにすごい気づくきっかけになりました。春の遠足で初めて海岸まで歩いたことで、車に対しての感謝がものすごく増えまして。学年祭とか、いろんな行事をやってくにつれて、街中に置いてあるチラシって、ただそこにあるんじゃなくて、誰かが考えて作って文字に起こして、飾りをして誰かが運んであるんだなっていう。周りにある1つ1つのものにすごい感謝みたいなのが。自分の生活と、いろんな人とかものとかにすごく支えられてできてるんだなっていうのはすごい思ったので」
あつしくん:「自分はやっぱり、視野が広がっていくか、そういう自分の考え方とか人生観の根本の基盤となった場所だったので。自分がここで得られたものがなかったらっていうのは想像できない」
ほうしょうくん:「桜島にサイクリングに行ったりとか、島にピクニックに行ったりとか、そこで見た景色がすごく印象になってて思い出になってる。その思い出を得られたし、そして今も友達がちゃんと残ってる」
それぞれが、どんぐりがもたらした価値を自分の言葉で表現しています。それは単なる「学校」という枠を超えた、人生の土台となる経験であり、つながりであることがわかります。
どんぐりへ通うことを考えている人へのメッセージ
最後に、これからどんぐりへ通うことを考えている人たちへのメッセージを聞きました。
こはるさん:「是非通って欲しいと思います。私がもし子供がいたとしても、絶対多分普通の学校じゃなくてこういう感じの場所でこう育って欲しいなと自分自身思うので。楽しいことだけじゃなくて大変なこともたくさんあると思うんですけど、それだけその分だけ得られるものが本当にたくさんあると思うので是非通ってください」
ひかりさん:「キャンプとか行事とか0から1から自分たちで作り出す経験は、本当に大変なんですけど、それによって気づくこととか、そこで得られる絆だったりとかは本当にかけがえのないものなので。もし公立とかなんかちょっと合わないなっていう人がいたらちょっと見にくるだけでもすごい楽しいと思う。気持ちが晴れやかになると思うので」
宮之浦岳の山頂にて
あつしくん:「社会で心豊かな、平和であろうって前向きな人間を育てている場所だと思う。そういう経験がここではできると思うので、自分の周りでここが必要だなって思ったら、すごくお勧めしますし、そういうコミュニティがあることを知ってほしい」
ほうしょうくん:「どんぐりのことをもっと多くの人に知ってもらいたい。自分はそのどんぐりだけじゃなくて、シュタイナー教育全体がもっと多くの人に知られてほしい。シュタイナー教育してる方がみんなで協力して知名度を上げてったら、その1つとしてどんぐりを知る人、どんぐりに行きたいと思う人も増えるかと思います」
おわりに
インタビューを終えて、どんぐり自然学校が卒業生たちにとってかけがえのない場所であることがよくわかりました。それは単なる「勉強する場所」ではなく、自分自身を形作る土台となり、人生の方向性を照らす灯りとなっています。
4人の卒業生たちの言葉からは、どんぐりでの学びが「周りを見る力」「感謝する心」「深い人間関係」など、生きていく上で大切な力につながっていることが伝わってきます。
これからも、どんぐり自然学校が多くの子どもたちの成長を支え、新たな出会いと学びの場となることを願っています。

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